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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)5315号 判決 1978年10月16日

第五四七一号事件原告

第五三一五号事件被告 甲野花子

同 甲野一枝

右両名訴訟代理人弁護士 秋守勝

第五四七一号事件被告

第五三一五号事件原告 甲野一郎

右訴訟代理人弁護士 木内二朗

同 國吉良雄

同 國吉克典

主文

一  第五四七一号事件被告は同事件原告甲野一枝に対し、別紙物件目録一、二記載の土地建物について、東京法務局新宿出張所昭和四二年一一月一日受付第二八二〇三号をもってなされた昭和四二年三月一五日相続を原因とする所有権移転登記に「所有者甲野一郎」とあるを「所有者持分二分の一甲野一郎、持分二分の一甲野一枝」とする更正登記手続をせよ。

二  第五四七一号事件被告は同事件原告甲野一枝に対し、昭和四七年一〇月一日から昭和四八年九月一四日まで一ヵ月金一一万二〇〇〇円、同月一五日から右更正登記手続完了に至るまで一ヵ月金一二万四五〇〇円の割合による金員を支払え。

三  第五四七一号事件原告甲野一枝のその余の請求を棄却する。

四  第五四七一号事件原告甲野花子の請求をいずれも棄却する。

五  第五三一五号事件被告甲野花子が別紙物件目録一、二記載の土地建物につき三分の一の共有持分権を有しないことを確認する。

六  第五三一五号事件原告の同事件被告甲野一枝に対する請求を棄却する。

七  訴訟費用は、第五四七一号事件原告兼第五三一五号事件被告甲野花子と第五四七一号事件被告兼第五三一五号事件原告との間においては、第五四七一号事件原告兼第五三一五号事件被告甲野花子の負担とし、第五四七一号事件原告兼第五三一五号事件被告甲野一枝と第五四七一号事件被告兼五三一五号事件原告との間においては、第五四七一号事件被告兼第五三一五号事件原告の負担とする。

八  この判決は第二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  第五四七一号事件につき

(第五四七一号事件原告兼第五三一五号事件被告甲野花子の請求、同甲野一枝の主位的請求)

1  被告は原告両名に対し、別紙物件目録一、二記載の土地建物について、東京法務局新宿出張所昭和四二年一一月一日受付第二八二〇三号をもってなされた昭和四二年三月一五日相続を原因とする所有権移転登記に「所有者甲野一郎」とあるを「所有者持分三分の一甲野一郎、持分三分の一甲野花子、持分三分の一甲野一枝」とする更正登記手続をせよ。

2  被告は原告両名に対し、昭和四六年一月一日以降右更正登記手続完了に至るまで一ヵ月各金九万円の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  第二項につき仮執行の宣言。

(第五四七一号事件原告兼第五三一五号事件被告甲野一枝の予備的請求)

1  主文第一項と同旨。

2  被告は原告甲野一枝に対し、昭和四六年一月一日から前項の更正登記手続完了に至るまで一ヵ月金一三万五〇〇〇円の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  第二項につき仮執行の宣言。

(第五四七一号事件被告兼第五三一五号事件原告)

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

二  第五三一五号事件につき

(第五四七一号事件被告兼第五三一五号事件原告)

1 被告両名が別紙物件目録一、二記載の土地建物につき各三分の一ずつの共有持分権を有しないことを確認する。

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

(第五四七一号事件原告兼第五三一五号事件被告甲野花子、同甲野一枝)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の事実主張

一  第五四七一号事件につき

(請求原因)

1 訴外亡甲野太郎(以下「太郎」という)は、別紙物件目録記載の土地建物(以下「本件土地建物」という)を所有していた。

2 太郎は、昭和四二年三月一五日死亡し、同人の法定相続人は、妻である第五四七一号事件原告兼第五三一五号事件被告甲野花子(以下「原告花子」という)、子である第五四七一号事件原告兼第五三一五号事件被告甲野一枝(以下「原告一枝」という)、第五四七一号事件被告兼第五三一五号事件原告(以下「被告」という)及び訴外乙川幸枝(以下「幸枝」という)であったが、幸枝は、昭和四二年六月三日、東京家庭裁判所に対し相続放棄の申述をなし、右申述は同年一〇月二日受理されたので、本件土地建物は原告花子、同一枝及び被告が各三分の一ずつの共有持分をもってこれを相続した。

3 本件物件には、被告のため東京法務局新宿出張所昭和四二年一一月一日受付第二八二〇三号をもって昭和四二年三月一五日相続を原因とする被告単独名義の所有者移転登記がなされている。

4 被告は、本件建物を他に賃貸し、昭和四六年一月一日以降一ヵ月金二七万七〇〇〇円の割合による賃料収入を得ている。

5 よって、原告両名は(但し、原告一枝は主位的請求として)被告に対し、本件土地建物に対する共有持分権に基づき前記所有権移転登記の更正登記手続と昭和四六年一月一日以降右更正登記手続完了に至るまで本件建物の賃料収入のうち原告両名の持分権に基づき取得しうる範囲内である一ヵ月各金九万円の割合による不当利得金の返還を求める。

6 仮に、原告花子の相続の主張が認められない場合は、本件土地建物は原告一枝及び被告の両名において各二分の一ずつの共有持分権をもってこれを相続したことになるから、原告一枝は、予備的に、右共有持分権に基づき前記所有権移転登記の更正登記手続と昭和四六年一月一日以降右更正登記手続完了に至るまで本件建物の賃料収入のうち原告一枝の持分権に基づき取得しうる範囲内である一ヵ月金一三万五〇〇〇円の割合による不当利得金の返還を求める。

(認否)

本件建物の賃料収入が昭和四六年一月一日以降一ヵ月金二七万八〇〇〇円であって、被告がその全額を取得していることは否認し、本件土地建物原告花子及び同一枝が相続したことは争い、その余の事実は認める。

(抗弁)

原告花子及び同一枝は、昭和四二年六月三日東京家庭裁判所に対し、相続放棄の申述をし、右申述は同年一〇月三日受理された。

(認否)

1 被告主張の相続放棄の申述が原告両名名義でなされ、これが東京家庭裁判所により受理されていることは認めるが、右申述が原告両名によってなされたものであることは否認する。

2 右相続放棄の申述受理の審判は無効である。

(一) 相続放棄の申述は、申述者が申述書に所定の事項を記載し、かつ署名押印することを要する一種の要式行為である(家事審判規則一一四条一項、二項)。しかるに、原告花子及び同一枝の昭和四二年六月三日付相続放棄申述書は、被告が偽造したものであるから、右申述書に基づく相続放棄の申述は無効であり、したがって、右申述受理の審判も無効である。

(二) 相続放棄の申述は、その真意が申述書提出時に存することを要するところ、原告両名は右申述書提出時に相続放棄の意思を有していなかったから、右申述は無効であり、また、原告一枝は相続放棄の考慮期間内に相続放棄の意思を有していなかったから、いずれにしても前記申述受理の審判は無効である。なお、原告一枝は、東京家庭裁判所の昭和四二年九月一一日の審判期日には出頭したが、相続放棄の申述をなす意思を表明せず、同年一〇月二日の審判期日には呼出を受けておらず、右審判期日には出頭していないし、同裁判所に対し相続放棄の意思を表明したことはない。

(三) 仮に、原告両名が東京家庭裁判所における審判期日である昭和四二年九月一一日又は同年一〇月二日に相続放棄の申述をなす意思を明らかにしたとしても、右申述はすでに相続放棄の考慮期間経過後になされたものであって無効であり、したがって、前記申述受理の審判は無効である。

(再抗弁)

1 仮に、原告両名の相続放棄の申述が原告らの意思に基づくものであるとしても、右申述は要素の錯誤により無効であり、これに基づく申述受理の審判も無効である。すなわち、太郎が死亡した当時、本件建物建築のための借入金が約金四〇〇万円未払となっていたところ、被告は原告両名に対し、「右債務の弁済のため、被告が本件土地建物を担保に銀行から融資を受ける必要があり、そのためには本件土地建物を被告の単独所有名義にする必要があるが、銀行からの借入金の返済を終えれば原告らとの共同相続名義に戻すから、相続放棄の申述をしてほしい旨」懇請したので、原告両名はこれを信じて相続放棄の申述をしたものであるが、原告両名としては、もし右申述により本件土地建物が名実ともに被告の所有となるのであれば、右申述をしなかったことは明らかであるから、右申述は、その要素に錯誤があり、無効である。

2 原告両名が相続放棄の申述をしたのは、被告の右欺罔行為により、錯誤に陥ったからである。そこで、原告両名は、昭和四七年四月一七日、東京家庭裁判所に対し、相続放棄の申述取消の申立をし、右申述は同年一〇月二四日受理された。

(認否)

再抗弁事実中、原告両名が相続放棄申述取消の申述をし、右申述が受理されたことは認めるが、その余の事実は否認する。

二  第五三一五号事件につき

(請求原因)

1 太郎は、本件土地建物を所有していた。

2 太郎は、昭和四二年三月一五日死亡し、同人の法定相続人は、妻である原告花子と子である原告一枝、被告及び幸枝であったところ、原告両名及び幸枝は、第五七四一号事件の請求原因及び抗弁事実のとおり、いずれも相続放棄をしたので、被告が本件土地建物の所有権を取得し、その旨の登記を経た。

3 しかるに、原告両名は、原告両名の相続放棄は無効であり、仮にそうでないとしても取消されたとして、本件土地建物につき、相続による各持分三分の一の共有持分権があると主張している。

4 よって、被告は原告両名に対し、原告両名が本件土地建物につき共有持分権を有しないことの確認を求める。

(認否)

原告両名が相続放棄したことは否認し(第五七四一号事件抗弁に対する認否のとおり)、その余の事実は認める。

(抗弁)

第五七四一号事件の再抗弁のとおり。

(認否)

第五七四一号事件の再抗弁に対する認否のとおり。

第三証拠《省略》

理由

一  太郎は、本件土地建物を所有していたが、昭和四二年三月一五日死亡したこと、太郎の法定相続人は、妻である原告花子、子である原告一枝、被告及び幸枝の四名であるが、幸枝は、昭和四二年六月三日東京家庭裁判所に対して相続放棄の申述をなし、同年一〇月二日受理されたこと、被告は、本件土地建物につき、東京法務局新宿出張所昭和四二年一一月一日受付第二八二〇三号をもって、昭和四二年三月一五日相続を原因とする被告単独名義の所有権移転登記手続を経由していること、以上の事実については当事者間に争いがない。

二  そこで、原告花子及び同一枝の相続放棄の効力について判断する。

1  原告花子及び同一枝名義で昭和四二年六月三日東京家庭裁判所に相続放棄の申述がなされ、右申述が同年一〇月二日受理されたことについては当事者間に争いない。

2  そこで、右相続放棄の申述及び受理の前後の経緯をみることとする。《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められる。

(一)  被告は、太郎の葬儀のあった昭和四二年三月一七日頃の夜、原告花子、同一枝及び幸枝に対し、相続放棄をしてもらいたい旨依頼したところ、原告花子は返答を留保し、幸枝は放棄を承諾したが、原告一枝は放棄は絶対しない旨答えた。その後、被告から原告一枝に対し、数回にわたり、右相続放棄の依頼がなされたが、原告一枝はこれを拒否した。

(二)  被告は、同年六月三日、東京家庭裁判所に対し、原告花子、同一枝及び幸枝の名義をそれぞれ使用し、記名押印した相続放棄申述書を提出したが、右申述書の作成提出にあたっては、原告花子及び幸枝についてはそれぞれの了解を得て、その依頼に基づいてなしたものであるけれども、原告一枝については何らの了解を得ることなく無断で提出したものである。

(三)  原告花子及び同一枝は、同年九月一一日、東京家庭裁判所において開かれた第一回審判期日に出頭したが、家事審判官の質問に対し、原告花子は相続放棄をする旨述べたものの、原告一枝が相続放棄をしたくない旨述べたため、家事審判官は再度考慮するよう促し、右期日は終了した。

(四)  東京家庭裁判所は、同年九月二〇日、原告花子及び同一枝あてに、第二回審判期日を同年一〇月二日午後三時とする審判期日呼出状郵送の手続をとり、右呼出状は、同年九月二四日頃、原告花子方(原告一枝も同居)に配達された。

(五)  原告一枝と被告は、同年九月三〇日、原告花子と共に霞ヶ関公証人役場に赴き、原告一枝が相続放棄することを条件に被告は原告一枝に対し金二〇〇万円を贈与することとし、その支払方法は、昭和四七年一月以降昭和五一年八月まで毎月末日限り金三万五〇〇〇円あて、昭和五一年九月末日限り金四万円の分割払とすること、原告一枝は被告に対し右贈与を受けた負担として本件建物に原告花子と同居する間被告に対し毎月金一万五〇〇〇円ずつを支払うことを内容とする公正証書を作成した。

(六)  東京家庭裁判所は、同年一〇月二日頃、第二回審判期日を開き、同日出頭した原告両名に相続放棄の意思を確認し、原告花子、同一枝及び幸枝の相続放棄の申述をいずれも受理する旨の審判をした。

(七)  原告一枝は、太郎が死亡した昭和四二年三月一五日、自己のために相続の開始があったことを知ったが、相続放棄の考慮期間(三ヵ月)末日たる同年六月一五日までの間はもちろん、その後も相続放棄の意思を有しなかったものの、前示同年九月三〇日の公正証書作成時に至りはじめて相続放棄の意思を有するに至ったものである。

以上のとおりであ(る。)《証拠判断省略》

3  まず、原告花子の相続放棄の効力について検討するに、前認定の事実によれば、原告花子の相続放棄の申述は、その真意に基づきなされたものであることは明らかである。

ところで、原告らは、相続放棄の申述が要式行為であることを理由に、原告花子の申述の無効を主張するが、相続放棄の申述書には申述者が自署するのが原則ではあるが、常に不可欠のものと解するのは相当でなく、第三者が申述者の意思に基づき申述者に代って記名押印したような場合は何ら要式性に欠けるものではないというべきであるから、原告らの右主張は採用できない。

次に、原告らは、原告花子の相続放棄の申述には、要素の錯誤もしくは被告の欺罔行為による錯誤がある旨主張する。なるほど、《証拠省略》中には、右主張に沿う部分がないではない。しかし、これらをもって直ちに右主張事実を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。かえって、《証拠省略》を総合し、弁論の全趣旨を併せ考慮すれば、(一)太郎死亡当時、同人には本件建物建築のための借入金、請負代金等の債務が約九〇〇万円あったため、被告は葬儀の直後から原告両名及び幸枝に対し、太郎の負担していた多額の債務は被告が責任をもって返済するから、相続放棄をしてもらいたいと依頼したが、これに対し、原告花子は、当初は返答を留保したものの、その後間もなく、被告によって自己の生活が経済的に保障されること及び親族間の平和が図られることを期待して積極的に右依頼に応じ、むしろ時には相続放棄に反対する原告一枝に対して放棄をすすめる態度に出ることもあったこと、(二)原告花子は、原告両名が昭和四七年四月一三日東京家庭裁判所に申し立てた遺産に関する調整調停事件においては被告に対し定期金の支払を求め、さらに原告花子が申立人となって昭和四九年一〇月二日東京家庭裁判所に対して申し立てた扶養調停事件においても被告に対し月々の扶養料の支払を求めていること、以上の各事実が認められるのであり、これらの事実に前項認定の事実をあわせ考慮すれば、原告花子は、むしろ老後の生活の保障により多くの関心があり、本件土地建物の相続については原告一枝と被告との間で円満に解決されれば、自ら共有持分の主張をする意思はなかったことが明らかであるから、原告花子に錯誤があったとする原告らの要素の錯誤ないし詐欺の主張はいずれも到底採用できない。

以上のとおりであるから、その余の点を判断するまでもなく、原告花子の相続放棄の申述は何ら瑕疵のないものとして有効であり、したがって、右申述受理の審判も有効というべきである。なお、原告花子が、相続放棄申述取消の申述をし、右申述が受理されていることは当事者間に争いがないが、右のとおり相続放棄の申述及び受理の審判に瑕疵がない以上、右取消申述及び受理の審判が効力を生ずるに由ないことは明らかであるから、前記判断を何ら左右するものではない。

4  次に、原告一枝の相続放棄の効力について検討するに、前認定のとおり、原告一枝名義の相続放棄申述書は、被告が同原告の了解を得ることなく作成提出したものであるばかりでなく、原告一枝は相続開始を知った当初から、相続放棄の考慮期間の末日である昭和四二年六月一五日までの間に相続放棄の意思を有したことは全くなく、したがって、右期間内に右申述を追認し、あるいは原告一枝自身において改めて放棄の申述をした事実等について格別の主張立証のない本件においては、原告名義でなされた右申述は何らの効力を有しないものというほかない。したがって、原告一枝については右考慮期間を徒過したことにより、本件相続につき、実体法上、いわゆる法定単純承認の効果を生じたものというべきである。そうだとすれば、右申述に基づいてなされた受理の審判は何らの効力を生じないことが明らかである。もっとも、前示のとおり、原告一枝は、昭和四二年九月三〇日に至りはじめて相続放棄の意思を有するに至ったが、当時はすでに相続放棄の考慮期間をはるかに経過していたものであるから、前記結論に何ら影響を及ぼすものではない。

よって原告一枝について相続放棄があったとする被告の主張は採用できない。

三  したがって、太郎の法定相続人中、原告花子及び幸枝は相続放棄により初めから相続人とならなかったものとみなされるから、結局、本件土地建物は、原告一枝及び被告の両名が共有持分権各二分の一ずつの割合をもって相続したものというべきである。

四  ところで、被告が本件建物を他へ賃貸していることは当事者間に争いがないが、その賃料収入額について争いがあるので検討する。

原告らは、右賃料収入額は昭和四六年一月一日以降一ヵ月金二七万八、〇〇〇円である旨主張するが、《証拠省略》を総合し、弁論の全趣旨を併せ考慮すれば、昭和四七年一〇月分の賃料収入額が二二万四〇〇〇円であり、その前後を通じ借家人との間に賃料改定がなされたことにより、昭和四八年九月一五日以降の賃料額の合計が金二四万九〇〇〇円となったこと、被告は、同額の賃料収入を今後ともあげうるものと予想されることが認められるが、始期、金額の点で右認定の限度以上にこれを認めるに足りる証拠はない。《証拠判断省略》

五  以上述べてきたところにより当事者双方の請求の当否について判断すると次のとおりである。

まず、原告花子の第五四七一号事件における請求は、相続放棄が有効である以上、理由のないことが明らかであるから、失当として棄却を免れない。

次に、原告一枝の同事件における主位的請求は、原告花子の相続放棄又は取消の主張が前示のとおり認められない以上、判断の限りでなく、予備的請求は、更正登記手続を求める部分については理由があるからこれを認容すべきであるが、不当利得金の返還を求める部分については、昭和四七年一〇月一日以降昭和四九年一二月一四日まで一ヵ月金一一万二〇〇〇円、同月一五日以降右更正登記手続完了に至るまで一ヵ月金一二万四五〇〇円の割合による不当利得金の返還を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却すべきである。

他方、被告の第五三一五号事件における請求について判断するに、原告両名が本件土地建物について共有持分権を主張していることは訴訟上明らかであるところ、原告花子に対する請求については、前示のとおり同人の共有持分権の主張は認められないから、右共有持分権の不存在確認を求める本件請求は理由があり、これを認容すべきであるが、原告一枝に対する請求については、前示のとおり同原告は本件土地建物につき二分の一の共有持分権を有するから、三分の一の共有持分権の不存在確認を求める本件請求は理由のないことが明らかであり、これを失当として棄却すべきである。

よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柳川俊一 裁判官 石垣君雄 裁判官伊東一廣は、職務代行を解かれたため署名捺印することができない。裁判長裁判官 柳川俊一)

<以下省略>

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